台湾高速鉄路公司(THSRC)【IRIS】

ロイド レジスターTransportation Communications Manager Andrew FoulkesAndrew Foulkesは、ロイド レジスターのTransportation Communications Managerです。
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「地震、台風、不況を乗り越え、台湾の高速鉄道は、人気と採算の取れる成功事業になりました」とAndrew Foulkesは話す

鉄道ロンドンのセント・パンクラス駅上階コンコースを12月の冬の風が吹き抜ける。同駅運営の視察に訪れた少人数の団体が、身を寄せ合い、じっと耳を傾けている。グループの中には、欧晋徳氏(董事長兼執行長)率いる台湾高速鉄路公司(THSRC)の代表団も含まれている。

厳密に言えば、わずか108kmの専用線路で、英国側が欧氏率いる台湾のチームに高速旅客サービスについて教えられることは殆どない。

しかし、セント・パンクラス駅と近隣のキングス・クロス駅で最近行われた再開発は、建築上の素晴らしさだけでなく、優れた商業手腕が鉄道業界で称賛されている。セント・パンクラス駅周辺にいる人々の約20%は、時間帯に関わり無く、国内や国外への鉄道サービスを利用するためではなく、ブティックやお洒落なカフェ、高級ホテルを利用するために駅にいると推定されている。

そして今、活気を取り戻したこれら2つの駅の後方に隣接する用地に、65エーカーの全く新しい商業地域が建設されている最中である。THSRCが視察に訪れた目的はこれである。鉄道旅客数が伸びてきており、最近では開業からわずか6年にして旅客数2億人を超え、同公司は駅および隣接する土地開発の可能性に現在目を向け始めているところである。

工学的驚異

台湾の高速鉄道は、それ自体が工学的な驚異である。台湾の西岸に沿って南北に走る345kmの単一路線で、首都台北と南部の都市高雄を繋いでいる。同線の大半は、高架かトンネルを通っており、夏の台風、頻発する地震など厳しい自然環境にさらされ、開業以来、150回以上のマグニチュード4以上の地震に耐えてきた。

こうした悪条件にもかかわらず、同鉄道は順調に運行しており、大地震発生時には、自動的に列車の速度を落とす、もしくは停車させるという最新警告システムの恩恵も少なからずあり、すばらしい安全運行記録を誇っている。

しかし開業当時、同鉄道が困難に直面したのは、周知のことである。1998年、THSRCが、35年のBOT(建設・運営・移転)営業権を勝ち取った時、同社は、1990年代後半のアジア経済全域の混乱の真っ只中であった。同様のプロジェクトが規模縮小もしくは断念となる一方で、THSRCは、民間が資金を提供するものとしては過去最大となる鉄道プロジェクトのひとつをやりとげたのである。

2007年1月の開業時には、すでに1年以上の遅れがあり、これは12ヵ月分の収入が失われたことを意味していた。同様に同公司を悩ませたのは、当初の乗客数(見込みの約4分の1)の不足と、沿線の商業および住宅開発が不十分な点であった。

厳しい道のり

このような例があるために、高速鉄道に関してはいまだに意見が分かれている。斬新で最先端と思われがちだが、高速鉄道は50年近くの歴史がある(日本の新幹線は、1964年に開業)。しかしながら、日本、フランス、ドイツ、そしてごく近年ではスペイン、イタリア、中国におけるネットワーク以外では、主にアジアおよび西欧のあちこちに数百マイル単位で点在する程度である。計画は世界の至る所で頻繁に発表されているが、大抵はもたついている。これは、空力学的デザインの専用車両と、カーブを最低限にして在来線との交差を避けた専用インフラに掛かる費用のためでもある(ドイツなどの国では、在来線を高速車両用に改修したところもある)。

また、新設路線は、高速鉄道が停車せずに通過する居住区では必然的に敵対意識が生じる。これは、用地購入および騒音緩和対策が高くつくことを意味している。

加えて、他の交通機関と比較した場合の、高速鉄道の競争力をめぐる論議もある。高速鉄道は、鉄道が走行する150km~800kmの両端に存在する人口密度の高い都市に過度に依存している、というのが全体的な総意である。短すぎても長すぎても、高速鉄道の利点はすぐになくなってしまうが、国内の全ての商業地区がこのサイズに収まる訳ではない。

このような政治的、財政的リスクに直面して、プロモーターがやる気を失っても不思議ではない。そして大方は、計画当初から説得力のある投資対効果検討書が欠けている。飛行機を使う旅客増への対抗か?ネットワークキャパシティ増か?国の生産性増か?経済成長の拡大か?

軌道に戻る

台湾について言えば、高速鉄道は同国の自然地理学および経済地理学ときちんと歩調を揃えていた、と欧氏は説明する。

「目的は、人々が台湾の経済活動の中心を行き来し、日帰りで家に帰れるという新しい市場を創造することでした。これにより、コミュニティーや地方が台湾の主要都市へと開けたのです。」

東部は主に山岳地帯で、台湾の2,300万人の人口の大半は、西海岸に沿った回廊に閉じ込められている。台北と高雄間の通勤客は、以前は、在来線で4時間掛けて移動するか、30分だが比較的料金が高い飛行機を利用するかのいずれかを選ばなければならなかった。一方で、台北と高雄の間にある居住区は、完全に人口過密で既にかなり負荷が掛かっており(所要時間の)予測ができない国道と鉄道インフラで間に合わせざるを得なかった。

しかし、THSRCの列車は、時速300km走行が可能であり、台北-高雄間の移動時間を約90分に短縮させ、台湾の主要な経済的原動力から立ち遅れる危険性のある6つの地域を繋ぐ。重要なのは、同計画は、ビジネスコミュニティーをターゲットとしてそこに依存したり、国内の航空市場に対抗したりといった、他の多くの計画では頻繁にあげられる点を開発理由としなかったことである。

「高速鉄道は、飛行機に比べて収容可能人数が非常に多い。旅客を飛行機から高速鉄道に引き寄せるだけで済ます訳にはいきませんでした。」と欧氏は話す。

「当社の高速鉄道におけるビジネス旅客市場は、約3割から4割に過ぎません。そのため、航空市場のビジネス旅客以外を視野に入れる必要があった。家族旅行や海外からの観光客向けの新しい機会を切り開き、台湾を端から端まで日帰りできるようにする必要があったのです。」

旅行客の傾向が予測どおりになるまで時間が掛かったが、これは今回のケースに限ったことではない。例えば、2010年のロンドン-パリ-ブリュッセル間における旅客数、約950万人は、1996年の開発当初予測にかろうじて達している。しかし、現在のTHSRCの旅客数は、開業1年目の旅客数の2倍以上となっている。金利を下げる政府支援の借換契約、全体的な経済の好転とともに、これによりTHSRCは開業からわずか4年の2011年に初めて利益を計上することができた。

現在THSRCは、沿線に3つの新駅を開設、台北市南港区より拡大しつつある。当初の路線と同様に、ロイド レジスターが、独立安全評価サービスを全線を通じて提供する予定である。


「目的は、人々が台湾の経済活動の中心を行き来し、日帰りできる新しい市場を創造することでした」

未来を保証

THSRCは、しかるべき時が来れば、同公司が鉄道サービスを提供しているコミュニティーにおける将来の経済発展の錨として駅資産がいつか機能することを願っている。

以前は工業地帯として虐げられて来たロンドン北部の地域から復興した新生キングス・クロス一帯の地平線を見渡し、欧氏は目の前に広がる野心に感銘を受けている。

「当路線の駅は、中心的位置を占め、既存の交通とも統合されており、好機はそこにあります。現在置かれている環境は、まだ空なのです。」と欧氏は話す。

しかし、魔法のような手法はないと欧氏は警告する。「開発にはさまざまな形態があります。成功している計画にはそれぞれ何かがあるものです。建築設計であれ、地域における機能であれ、重要なことは、その開発がその地域に合っているということです。」

これは、新しい市場をどのように開拓するかという綿密な計画と明確な目的があれば、高速鉄道は有益で採算が取れるということの証明となるに等しい。

台湾は、「場所に適した」システムを作った。同国の経済的展望のニーズに合い、最小限の土地利用で最大の輸送量を提供し、エネルギー使用および汚染レベルを長期削減させるシステムである。

困難をよそに、台湾は、人気があり持続可能で効率的な都市間輸送として、高速鉄道が次の半世紀を迎えることができることを証明している。