【環境】環境マネジメントシステムは、経営ツールとして機能していますか?

文:LRQA ジャパン EMS&GHGマネジャー 主任審査員/GHG主任検証員
飯尾隆弘

京都議定書が正式発行されるなど環境社会がますます進展していく中、2004年12月に改定されたISO 14001。その改定内容は、これまで“紙、ゴミ、電気の削減”に終始しがちだった環境活動から、製品・サービスの質の向上を環境貢献に結び付けるという有意義な取り組みへ、シフトさせるものとなっています。認証取得企業でこれから始まる移行審査は、環境活動の意味を改めて考え直す、よい機会になるのではないでしょうか。

「環境活動=紙、ゴミ、電気の削減のみ」という大いなる誤解。

96年の規格制定以来、大手企業から中小企業に至るまで幅広く導入が進められてきた環境マネジメントシステム。日本で認証を取得した企業は13,000社を超えているといわれ、世界でも突出した認証件数となっています。しかし、環境活動の実情といえば、工場内や事務所内の紙の使用量や廃棄物量、電気量を減らすことに終始しているだけ、という企業が多く見受けられます。こうした“紙、ゴミ、電気の削減”だけで、本当の意味での環境負荷を低減していくことができるのでしょうか?答えはNOといえそうです。

確かに“紙、ゴミ、電気の削減”は大切ですし、それなりにコスト削減などにもつながっていることでしょう。しかし、ゴミや電気を減らすにも必ずや限界が出てきますし、こうしたうわべだけの活動に目を奪われてしまっていると、本業そのもののポテンシャル低下にもつながりかねません。そうなると、まさに本末転倒です。こうした中で“紙、ゴミ、電気の削減”だけを行うという、ISO 14001の誤った認識を脱却して、企業本来の事業活動である製品・サービスの質の向上と環境負荷の低減を明確にリンクさせていくのが、2004年の改定の大きなポイントとなっているのです。

製品、サービスの質の向上が、環境負荷低減につながる。

本来の事業活動である製品・サービスと環境活動をリンクさせるといっても、あまりピンとこない経営者の方々も多いのではないでしょうか。では、自動車を例にして考えてみましょう。車というのは、排気ガスなど有害物質を出すものですから、本来環境にあまりいいものではありません。そこで、有害物質がでなくて燃費のよい車を、環境の負荷を下げながら製造していく、そして、完成した車をどんどん売っていく、そうすると利益を追求しながら、環境負荷を減らしていくことができ、さらには、継続的な改善も進めていく‥‥。こうした一連の流れをマネジメントするのが本来のISO 14001のあるべき姿、経営ツールとしての役割といえるのです。

このように、製造業の場合には環境貢献の仕組みが分かりやすいのですが、サービス業ではどう考えればよいのでしょうか。消防署を例にして考えてみましょう。消防署のサービスといえば、より早く消火をしたり、防火をしたりすること。それが環境とどんな接点をもっているのでしょうか。火事になって家が燃えてしまうと、廃棄物が出てきます。燃えるときにも有害物質が出てくるでしょう。火事というのは環境破壊そのものなんです。そのため、消防署ではより早い消火や万全な防火を行っていくことこそが、環境への負荷を減らしていくことになるのです。こうしたサービスの向上と環境活動をリンクさせたものが、ISO 14001で目指している仕組みなのです。

2004年の改定によって、「環境活動、製品、サービスによって、環境負荷を低減させる」という仕組みがない場合には、審査をパスすることができなくなりました。そのため、マネジメントシステムを再構築する必要のある企業も出てくるでしょう。しかし、実はLRQAでは以前からISO 14001の本質を鋭く見抜き、製品・サービスの質の向上と環境負荷の低減をリンクさせるという解釈の元、審査を行ってきたのです。このため、LRQAで認証を取得した企業では、ISO 14001を経営ツールとして使いこなし、環境への貢献だけではなく、利益体質まで強化してきたという例が数多く報告されています。

ケーススタディ

トップダウン型マネジメントシステムを徹底することで効果が高まる。

2004年版ISO 14001改訂のポイントしかし、利益体質へ転換させる環境マネジメントシステムを構築しても、PDCAサイクル(PLAN→DO→CHECK→ACTION)といわれる継続的改善への健全な取り組みを行っていかなければ、せっかくのシステムも無駄なものになってしまいます。そこで、経営者が環境活動の方針を定め、社員を目標達成に向けて活動させていくトップダウンの仕組みが重要な役割を果たすのです。今回のISO 14001改定では、こうしたトップダウン型マネジメントシステムを厳密に規定しています。システムの目標や達成度のレビュー、前回のトップの指示内容のフォローアップなどを明確に行う仕組みづくりで、継続的な改善へ確実に結び付けるシステムとなります。

また、トップダウン型のシステムでは、従業員すべてにISO 14001の意味についてキチンと理解させていくことが必要です。社員の中で“やらされている感”があると、せっかくのマネジメントシステムも有効に機能しなくなってしまうからです。貴社の社員教育の中では「環境側面」というような規格用語をそのまま使っていませんか?それでは、社員もマネジメントシステムの意味は理解しがたいでしょう。 LRQAでは、審査を通じてこうした教育の大切さなども理解していただいているのです。

現場での審査が、大切なポイント。

ところで、審査登録機関による審査の際に、ほとんどが会議室での書類審査だった‥‥、という経験はないでしょうか?審査登録機関によっては、こうした文書重視の審査を行っている機関もあるようですが、これでは実際の現場がどうなっているかが、チェックできません。例えば、書類上は棚にしまってあるはずの薬品の瓶が、思わぬところに置いてあることを見逃してしまうなど、文書だけではリスク管理の審査も十分に行うことができないのです。LRQAでは徹底した現場主義の審査を行うことによって、実際の現場がシステムに即したものになっているかをチェック、審査をより有意義なものとしています。さらに、LRQAではISO 14001をISO 9001やその他のマネジメントシステムと連動させていく審査を行っています。このため各マネジメントシステムはより有効な経営ツールとして機能して、売り上げアップやコスト削減、顧客満足度向上など具体的な成果が表れてくるようになるのです。

これを機会に、本当に貴社の環境マネジメントシステムが、本業である製品・サービスとリンクしているかどうか、経営ツールとして機能しているかどうか、よい審査登録機関を選んでいるかどうか、そんなポイントを再チェックしてみてはいかがでしょうか。

審査登録機関選びのポイント


(掲載日:2005年4月1日)

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