【事業継続】事業継続マネジメントの基礎 BCM(5):RTOとは?

今回の説明は、RTO(Recovery Time Objective)です。RTOは、災害・事故・事件に遭遇した場合に、事業や業務を再開するまでの目標時間で、日本語訳は「目標復旧時間」です。「RTOが短い」ことは「被災後の事業再開が早い」ことを、また「RTOが長い」ことは「事業再開が遅い」ことを意味します。従って、一般的には、企業・組織はRTOの短縮化を目指すことになります。

1. RTOの短縮

RTOを短くする方法は大きく分けて次の二つがあります。

A: 被災設備などの復旧時間を短くする
B: 他の設備などで同等の事業を行う

Aは「継続対策のないRTOの短縮化」、Bは「継続対策のあるRTOの短縮化」です。BCMはBを推奨しますが、後述のとおりインフラ系のようにBがコスト的に難しいケースもあります。

新型インフルエンザ対策を例に考えてみましょう。社長・ITシステムの責任者・特殊技能者などが感染し入院した場合、Aで必要な対応は「社長などに速やかに回復して頂く」ことになり、Bの場合は「社長などの業務を代行者に処理して頂く」ことになります。地震や火災の場合は、Aの場合は「被災現場の復旧を急ぐ」こと、Bの場合は「別拠点で同等の事業を行う」ことが必要になります。

Aの場合もBの場合も長所と短所があります。Aの長所は、Bに比較しコストを低く出来ることです。Bの長所は、Aに比較しRTOを著しく短くすることが出来ることです。分かりやすい例はITシステムであり、ITシステムの事故停止などを想定しますと、次のようになります。

A: 復旧のための機材、人材、データを、被災後に素早く手配入手し、復旧させる
B: 別のシステムを稼働させる

Aは、被災した機材・人材・データのみを手配入手し、復旧させますので、余分な機材などは必要なく、コストを低く抑えることが出来ます。さらに、時間があれば、安い機材などの検討も可能です。
これに対し、Bは稼働中のシステムと同じシステムを別に持つことになり、余分な機材を必要としますが、著しく短時間で業務の継続が可能となります。
AとBのどちらを選ぶかは、経営者が決めることですが、鍵はコストと時間のバランスです。コストを低減することは出来ますが、この場合は時間がかかります。時間を短縮化し、ほぼゼロ秒にすることも可能ですが、この場合は別のシステムを必要としますから、機材などが二重、三重に必要となり、コストが上がります。
最近の傾向として、顧客の強い要望によりBを選ぶ業種が増加しています。代表的な業種は、銀行などの金融機関、輸送業、マスメディア、通信業、ITサービス業です。

2. RTOの設定

一般的にRTOは短い方が良いのですが、「どの程度に設定すれば良いのか」は、業種により次のように異なります。

金融機関・通信業・IT業など: ゼロ時間が目安
電気・ガス・水道・道路・鉄道・行政など: 短い方が良く、1週間が目安
製造業・販売業: 競争相手との関係による

過去には、銀行のATMが使えなくなるケースや、電話・メールが使えないケースがありましたが、これら事故の再発防止には、他のシステムによるバックアップが必要となります。一番良いバックアップは、バックアップシステムが稼働したことが分からないミラーシステムです。
電気・ガスなどのインフラ系は停止をしないことがベストです。このためにはシステムの二重化が必要となりますが、インフラ系は基礎コストが巨額ですから、二重化が難しいケースが多く、RTOの短縮化は発災後の緊急時対策と復旧対策の効率的運用に頼ることになります。復旧時間の目安は、顧客である利用者や住民の停止による経済的コストに依存しますので、利用者等の多いところや経済活動の活発なところは短くなります。
多くの企業は、市場競争の中でRTOを決めることが求められます。市場競争が激しい分野は、被災企業が商品やサービスの提供を休止している間に、競争相手がそのマーケットを奪う可能性がありますからRTOが短くなります。市場が落ち着いている分野は、被災企業が商品等の提供を休止しても、顧客が他社の商品等を購入せず待ちますから、RTOが長くなります。この例は、ブランド商品、医薬品、嗜好品などですが、企業数はあまり多くないと思います。

3. 設定されたRTOと現状との問題点

次に設定されたRTOの実現可能性をチェックします。「B: 他の設備などで同等の事業を行う」は、実際にバックアップ用のITシステムを稼働させてみることや、他の生産設備等で商品製造・サービス提供を行いチェックします。「A: 被災設備などを復旧する時間を短くする」も地震や火災の被害を想定し、机上訓練と実地訓練を行いチェックします。
チェックで出た問題点を確認し、改善すれば設定されたRTOが実際に可能になります。このチェックの際に必要となるのが前回のBIAでも説明致しました次表です。この表は、企業活動の基礎となる経営資源を大きくはヒト・モノ・カネ・情報に、詳細項目ではネジや個別情報に分けチェックするためのモノです。この表の項目は詳細であるほど良く、実際の災害などが発生した場合に有用となります。

表  BIA(D表)

表  BIA(D表)

ただし、詳細にすればするほど作成費・管理費が必要になりますので、前回に説明しましたBIAのA・B・C表で、詳細にする商品やプロセスを絞ることになります。別な方法として詳細化のレベルを緩くすることもありますが、これはBCMの有用性を悪くしますから、避けて下さい。詳細化は可能な限り行い、選ぶ事業・商品・プロセスの範囲を始めは小さくすることが重要です。


事業継続マネジメントの基礎(BCM) コラム著者

LRQA ジャパン エキスパート 
一般社団法人レジリンス協会 理事 
黄野 吉博 


(掲載日:2009年11月26日)

    

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