【食品安全】GOMAME先生の食品コラム(5):「食品防御」 -Food Defense-

東南アジア、南米駐在時の友人が訪日すると連絡が入り、我が家に泊まったり、夕食を共にしたりして旧交を温めています。
彼らが日本に来て驚くことは、新幹線の速度と運転間隔、電車の中での熟睡、深夜の女性の一人歩き、自動販売機・CDの無防備な屋外設置等々、私たちが日頃当然と思って生活している環境が彼らには不思議に思われる様です。

日本は安全な国として世界に広く知られていましたが、最近の事件をみると、残念ながら安全神話は過去のものなりました。犯罪の手口も従来の日本では考えられない荒っぽさになっています。残念ながら日本の社会は人の国際化より先に、治安面の悪さが国際化したと思わざるを得ません。

食品防御(フードディフェンス)に関する世界の関心が高まっています。
食品防御とは「食品に対して人為的に毒物や薬物などの有害物質が加えられることによって、それを食した人が身体的障害を負う事態になることを防ぐための措置」です。

私たちが取り組んでいる「安全な食品の提供」と比較すると、有害物質を防ぐ意味では似ていますが、人為的混入を想定するかどうかで大きく異なります。2001年の米国同時多発テロ以降、世界ではテロ対策が国家的課題となっています。特に食品サプライチェーンは犯罪者とって実行コストがかからない上に、甚大な社会的被害が期待できること及びサプライチェーン全体での対策が必要であり、守備範囲が広く手薄になりやすいという側面を持っています。

食品安全マネジメントシステムの導入推進により、フードサプライチェーン全体の食品安全の確保・向上が図られていますが、これ等のシステムは「悪意を持った者による意図的な食品への危害要因の混入」は想定していません。

1984年3月のG・M事件、11月のH食品工業脅迫事件とそれに続くM食品、F社等の食品企業に対し青酸混入菓子を店頭に置くなどして多額の現金を要求した事件、1998年の和歌山カレー事件、最近では未だ真相はわかりませんが輸入餃子事件等日本でも「悪意を持った者の意図的な毒物の混入」事件が発生しています。「日本は安全」と思い込み、食品防御の仕組みづくりが遅れていないでしょうか。

世界各国では食品防御の政策化が進んでいます。例えば米国では2002年にバイオテロリズム法を制定。また同年、世界保健機関も食品テロに対応するためのガイドラインを定め、これ等を参考に日本でもこうした動きが始まりました。
(詳細は下記を参照して下さい。)

しかしながら、これ等の対策はパソコンウイルス対ウイルス対策と同様に際限のない戦いになりそうな気がします。被害者は何の理由もなく無差別に被害を受け、社会全体として何の利益も生みません。食品産業はデフレスパパイルの中で利益確保に苦慮しながら、食品防御費用の増大という新しい課題を抱えています。

先の見えない経済環境、日本の産業の特徴であった終身雇用の崩壊による従業員意識の変化、港湾や空港が発達し何処からでも世界の情報・物・人々が自由に往来できる所謂ボーダーレス時代への突入等社会環境は大きく変化していますが、食の安全というテーマはこれからの重要課題であることに間違いありません。今迄日本は性善説的な考えでフードサプライチェーンを管理してきましたが、残念ながら、今後は性悪説的な考え方による防御まで含めた食の安全を考えなければならない時代になってしまいました。

「Farm to Fork」の食の安全に「食品防御」まで含めなければならない現状を嘆くばかりでなく、食品に関わる産業を中心に国家的課題として取り組んでいく必要があると思います。


【参考文献】

FSIS (U.S. Department of Agriculture Food Safety and Inspection Service) 

"Safety & Security Guidelines for the Transportation & Distribution of Meat, Poultry & Egg Products"
"Guideline for the Disposal of Intentionally Adulterated Food Products and the Decontamination of Food Processing Facilities"

WHO (World Health Organization 

"Terrorist Threats to Food-Guidelines for Establishing and Strengthening Prevention and Response Systems"

FDA (Food and Drug Administration) 

"Food Defense and Terrorism"
"Retail Food Stores and Food Service Establishments; Food Security Preventive Measure Guidance"
"ALERT: The Basics"

食品によるバイオテロの危険性に関する研究班(厚生労働科学研究補助金)   

"食品工場における人為的な食品汚染防止に関するチェックリスト"


(掲載日:2009年11月27日)


【GOMAME先生の食品コラム】
LRQA ジャパン所属の食品審査員が、当サイトにて書き下ろした食品にまつわるコラム(全6回)。ちなみに、ごまめ(GOMAME)とは、正月料理の「田作り」のことで、カタクチイワシの幼魚を生干したもの。

 

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