【事業継続】事業継続マネジメントの基礎 BCM(6):BCMまとめ

今回でこのコラムも最終回となります。駆け足になりますが、BCMについての基礎知識をまとめたいと思います。

1. BCMとは何か

BCMは災害・事故・事件に対する企業の総合的な対策で、基本的な考え方は二重化 (*1) です。この二重化には次の事項が含まれますが、業種により実現が困難な事項も含まれています。 

  • 顧客の二重化
  • サプライヤーの二重化
  • インフラの二重化
  • 経営資源の二重化

経営資源には次のものを含みます。

  • ヒト: 人材、組織
  • モノ: 材料、部品、生産設備、製品、知財、ノウハウ、ビル、周辺環境
  • カネ: 現金、経理、財務
  • 情報: 一般情報、ITシステム

経営資源の二重化はコスト増に直結します。BCMはこのコスト増を合理的に抑制し、かつ、災害・事故・事件への対策レベルを向上させることを目指します。この過程の途中では、バラバラに行われていた各種対策を統合化することによるコスト減も発生します。また、BCMは、“二重化が不可能な時間”を一番重要とします。この時間は、各種対策を構築する際の最重要な判断基準になります。 

*1 【二重化】
構成の同じシステムが2つあること。あるいは、システム内にバックアップを設けること。

2. 合理的な二重化

前章で申し上げましたが、BCMのポイントは二重化することです。この二重化を全ての顧客、サプライヤ、インフラ、経営資源に対して出来るのがベストですが、二重化はコストがかかりますから多くの企業ではそれが出来ません。そこで、二重化する部分を合理的に少なくし、コストを下げる方法が求められます。BCMの観点からはその方法には次の二つがあります。

2.1  その企業が弱いところを探し、その部分を二重化する
2.2  その企業の重要な部分を探し、その部分を二重化する

この「2.2」は、具体的には次の作業を行うことを求めます。

  • その企業が過去に被った災害・事故・事件の原因、直接被害、間接被害
  • その企業の顧客が被った災害・事故・事件の原因、直接被害、間接被害
  • その企業のサプライヤーが被った災害・事故・事件の原因、直接被害、間接被害
  • その企業のインフラ系被った災害・事故・事件の原因、直接被害、間接被害
  • その企業の同業他社が被った災害・事故・事件の原因、直接被害、間接被害
  • それらのヒヤリハット
  • その企業の災害・事故・事件対策の現状

これら調査を行ったのちにすべき対策には、次があります。

A  原因の除去 (防災等、リスク回避)
B  被害の低減 (減災等、リスク低減)
C  保険でのカバー (リスク移転)
D  残存リスクの保有

3. 既存のリスク対策との違い

既存のリスク対策とBCMは、前述上記のA「原因の除去」とB「被害の低減」については全く同じです。CとDでは違いが生じます。既存のCは、保険を掛けた部分の損失を保険金で補うことですが、BCMは保険金ではなく通常事業・業務の継続を求めます。これは、損失が発生しやすくなる事業・業務の二重化を求める、という意味です。

被災部分をお金で補う方法は、サプライチェーンを構成する社内外の事業部・企業が被る間接的な被害は補えません。例えば、ある部品のX社の製造工場が火災で操業停止になった場合に、その被災工場は保険で再建が可能ですが、その部品がないために他社(Y社)の工場が操業を停止に追い込まれる場合があります。Y社から見て、X社から部品が供給されなくとも操業を続ける方法を取ることがBCMで言う二重化です。

さらに、リスクの存在が不透明な残存リスクに対しても、二重化は効果があります。この良い例が、Z社のZ1工場と同じ商品をZ2工場でも製造する方法です。この方法は、いかなる災害・事故・事件が発生しても、Z1とZ2の両工場が被災しない限り、商品の供給を続けることが出来ます。

4. 重要部分の洗い出し

次は、「2.2」です。この2.2はBCM特有の対策です。この重要部分は、業界・企業規模・企業文化で異なります。この重要部分を探す方法をビジネスインパクト分析(BIA:Business Impact Analysis)と言います。これについては、連載の前々回(第4回目)をご一読下さい。

なお、企業の重要部分は、中堅企業や中小企業ではBIAを実施するよりも社長や役員に聞いた方が早くかつ的確なケースが多いと思います。社団法人日本工業技術振興協会(JTTAS)によると、従業員数が500名を超える場合はBIAの実施を検討した方が良いそうです。

5. 保険とBCM

保険とBCMは概ねの関係があります。

リスク顕在化の確率

「Aゾーン」は、リスクが顕在化する確率が高く、顕在化した場合の影響金額がそれほど高くないものです。タイヤのパンク、電池切れ、コピー機の故障、PCの故障などで、多くは保険ではなく、保守契約や必要部品の在庫(二重化)により対応しています。

「Bゾーン」は、リスクが顕在化する確率が中程度で、影響金額も中程度のもので、一般的に在庫の積み増し(二重化)や保険で対応しています。

「Cゾーン」は、顕在化の確率は低いが影響金額が大きいものです。この部分も保険でカバーが可能ですが、一般的に保険金が高額になるため、多くの企業は保険をかけていないと思います。また、サプライチェーン経由での操業中断など関係被害も顕在化の確率と影響金額の両方が透明なために保険金が高額になり易く、これも多くの企業は保険をかけていないと思います。ここで注意が必要なのは、BCMは二重化をすることにより災害・事故・事件による事業や業務の中断・停止をなど回避することに力点があり、中断・停止を保険金などで充当する方法は事業・業務再開の補助的方法と考えます。ここは、別の機会に詳しくご説明したいと思っています。


全6回の連載でしたが、BCMの大枠についてご理解いただけたのであれば幸いです。
LRQAでは、BCMに関する教育研修・審査登録サービスを実施することで、皆様の事業継続を積極的にサポートさせていただいております。 BCMについてご興味をお持ちの方は、LRQAジャパンまでお問い合わせください。

短い期間ではありましたが、ご愛読いただきましてありがとうございました。



事業継続マネジメントの基礎(BCM) コラム著者

LRQA ジャパン エキスパート 
一般社団法人レジリンス協会 理事 
黄野 吉博 


(掲載日:2010年1月6日)

    

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