【ISO全般】ISOもドラッカーも、企業経営と一体化させることで、大きな成果が生まれる。

LRQA ジャパン テクニカルオペレーションマネジャー 新倉 博文

2009年に発売されて以来、累計発行部数250万部を突破した「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」。
この本を入口として、経営を動かす仕組みである“マネジメントシステム”に、多くの人々が関心を持つようになったのではないでしょうか。
また、“マネジメントシステム”のもう一つの入口となっているのは、もちろん“ISO”です。
今回は、特別企画として、LRQA ジャパン 新倉博文 審査員とともにISOとドラッカーを比較しながら、マネジメントシステムの本質について考えていきます。 

ISOは組織の目的達成のための仕組みと、一体化すべきもの

まず、始めに“マネジメントシステム”という言葉について簡単に説明させていただきます。組織を目的達成へ向けて動かす仕組みである“マネジメントシステム”は一般によく使われる言葉ですが、英語を母国語としない私達にとってこの言葉のニュアンスは理解しにくいかもしれません。“マネジメント(management)”の“man”というのは元々ラテン語の“manus”という「手」を意味する言葉から来ており、何の手かというと“馬を操る手”を意味します。”management”という言葉には、”manage”「自分の馬を目的のところへうまく操って行く」という意味が含まれています。

次に、“システム(system)”という言葉ですが、簡単に言うと、特徴としては以下の3点が挙げられます。(1)“全体として目的を持っている”、(2)“二つ以上の要素から成り立っている”、(3)“それらの要素がうまく関係し合うようにそれぞれの機能を果たす”ということです。つまり、“マネジメントシステム”というのは、「様々な要素(プロセス)を組み合わせながら、問題を乗り越え、目標を達成していくためのもの」、ということになります。ManagementやSystemという用語は理解しにくい言葉ですが、前述の説明はISOやドラッカーを通してその本質を理解する際にお役に立つのではないかと思います。

企業の経営を動かす仕組み“ビジネス・マネジメントシステム”(P4図-1)は、ISOのように手順書として見える化されていなくても、どのような組織でも必ず持っているものです。何らかの仕組みがなければ、経営が成り立たないからです。ISO 9001やISO 14001は、そのビジネス・マネジメントシステムの中で、品質や環境を管理するために、やらなければならない最低限のことが書かれています。つまり、ISO 9001はビジネス・マネジメントシステムとは別のものとして構築するのではなく、通常業務の仕組みであるビジネス・マネジメントシステムを補強する役割を果たすものなのです。

“ISOの活動が業務の負担になる”、“ISOがあまり役立たない”という課題を持つ組織も散見されますが、ビジネス・マネジメントシステムからはみ出したり、別のものとしてISOを構築、運用しているために二重業務となっているのではないでしょうか。例えば、ある企業では、審査員から“経営計画・通常業務・ISOマニュアルの整合性が取れていない”“ISOマニュアルが複雑で、誰もが使えるように簡素化されていない”と指摘されました。そこで、ISOが日常業務に役立つものだという意識が芽生え、ISOをビジネス・マネジメントシステムと一体化させて業務効率向上や業務のレベルアップを実現されています。このように、ビジネス・マネジメントシステムを補強するものとしてISO 9001を活用すれば、必ずその成果は出てくるはずです。

ISOは、ドラッカーと同じ経営に役立つ考え方

もう少しISO 9001の役割について説明していきましょう。組織を動かしていくために大切な役割を果たすのが、経営方針でしょう。ISO 9001では、トップマネジメントにより品質方針を表明することで組織の動きが方向付けられますが、この方針の根底にあるものが組織のミッションです。自分たちが何をする組織であるのか、何がミッションであるかを明確にしていかなければなりませんが、そこで重要になってくるのが、顧客が誰かということ。ISO 9001では2000年版から顧客重視が大きなキーワードの一つとなっており、企業が成長していくためには、顧客のニーズを掴み、確かな価値を提供していくことが必要だと要求しています。

こうした考え方は、ドラッカーもマネジメントの重要項目としてあげています。「成功を収めている企業の成功は、『われわれの事業は何か』を問い、その問いに対する答えを考え、明確にすることによってもたらされている。」、「『顧客はだれか』との問いこそ、個々の企業の使命を定義するうえで、もっとも重要な問いである。」、「顧客を満足させることこそ、企業の使命であり、目的である。」(ピーター・ドラッカー著、上田惇生編「マネジメント[エッセンシャル版]基本と原則」ダイヤモンド社 P23)とドラッカーは書いています。このように見ていくと、ISO 9001は単なる品質に関するマネジメントシステムの規格ではなく、企業経営を動かすビジネス・マネジメントシステムに直結するものであり、ドラッカーの説くマネジメントと別のことを言っているのではないという捉え方ができると思います。

ISOの“PDCAサイクル”と、ドラッカーの“目標管理”

ISO 9001の中で重要な考え方の一つが、PDCAサイクルによる継続的改善です。企業が望む目標に辿り着くために、トップが方針、目標を打ち出し、それを社員たちが共有しながら各部門へ展開して目標設定を行い、その成果をチェックして目標を到達していれば次のレベルへ、到達しなければ問題点を見出し、次の目標へつなげていきます。一方、ドラッカーが重要だと考えていたのは目標管理。「自らの仕事ぶりを管理するには、自らの目標を知っているだけでは十分ではない。目標に照らして、自らの仕事ぶりと成果を評価できなければならない。」(同書P140)と書いていますが、まさにこれはPDCAサイクルの考え方と同じといえるでしょう。

このPDCAサイクル、目標管理の考え方を、社員のモチベーション向上にも役立てている企業もあります。社員のモチベーション低下の原因の一つは、“それをやらなければならない理由を教えてもらえていない”こと。言い換えると、トップやマネジャーと目的、目標を共有できていないことが原因となっているのです。逆に、トップやマネジャーが社員たちと方針、目標について話し合い共有化したうえで、PDCAサイクルを回していくことで社員がやるべきことが明確となり、モチベーションが向上して業績も上向いていくのではないでしょうか。事実、ある企業では、経済不況時に全部門でコスト削減を目標に掲げ、やるべき対策を徹底して話し合い、PDCAサイクルを回していったことで、約65%ものロスコストを削減されています。

ビジネス・マネジメントシステムとISOマネジメントステム/PDCAサイクルの効果を高めるポイント

マネジャーに求められるコミュニケーションと真摯な姿勢

また、モチベーション向上のもう一つのポイントとなるのが、ISO 9001でも求められている内部コミュニケーションではないでしょうか。トップやマネジャーが、正社員だけではなく派遣社員、パート社員にまで、真摯な姿勢で方針、目標を伝え続けていく。そうしたコミュニケーションの活性化で、組織全体のモチベーションが上がっていくのだと思います。ある企業では、何か不具合が起こった際に、マネジャーレベルで対応を決めるだけではなく、不具合を起こした本人を巻き込み、参加意識を持たせながら原因究明して問題を解決していき、不具合が減少していきました。コミュニケーション向上による成果の一例です。

ドラッカーも、「組織においてコミュニケーションは単なる手段ではない。それは組織のあり方である。」(同書P164)と、目標管理に加えてコミュニケーションの重要性についても説いています。

また、私が審査員としてISOの審査をしている際に感じるのは、成果を上げている企業は、社員の皆さんが真摯さ(Integrity)を持っているということ。やはり真摯な姿勢で取り組んでいかなければ、いい社風、文化、ビジネス・マネジメントシステムは生まれません。ドラッカーも、マネジャーに求められる条件について「根本的な資質が必要である。真摯さである。」(同書P130)と書いているのです。

なぜ、ISOに取り組んでいくのかを考えることが大切

経営スピードの向上が業績を左右する現在のビジネス環境において、以前にも増してスピーディかつ的確な経営判断が求められるようになっています。ISO 9000にある「品質マネジメントシステム」の8原則のひとつに、“意思決定への事実に基づくアプローチ”というものがあり、“効果的な意思決定は、データ及び情報の分析に基づいている”と定義されています。ISOを活用すると、業務プロセスや責任、権限が明確になるとともに、マネジメントレビューで各部門の成果や問題点がタイムリーに経営層に上がってきます。こうした経営状況の見える化は、より的確、かつスピーディな経営判断をサポートしてくれるでしょう。また、品質だけではなく、環境、労働安全衛生などを統合したマネジメントシステムとして運用して、あらゆる情報を一元化して収集し、より包括的な視点での経営判断に役立てている企業もあります。さらに、ISO 31000(リスクマネジメント 原則及び指針)の考え方は、今やるべきこと、すぐにはやらなくていいこと、を整理でき、的確な経営判断に役立ちます。ドラッカーも意思決定の重要性について、「常に『意思決定は必要か』を検討しなければならない。何もしないことを決定するのも、一つの意思決定である。」(同書P153)と説いています。

LRQA ジャパンのビジネス アシュアランスなお、LRQA ジャパンでは、ビジネスアシュアランスというコンセプトのもと、潜在的なリスクを見える化するリスクベースのアプローチ審査をスタートさせて、経営リスクの低減をサポートしています。

ここまでISOを経営に役立てることができるということについて、ドラッカーの考え方の一端を取り上げながら述べてきましたが、やはり重要となるのは、ISOのマネジメントシステムは組織の経営の仕組み“ビジネス・マネジメントシステム”と一体化して活用していくこと。また、これをうまく活用していくためには、なぜ、ISOに基づくマネジメントシステムを取り入れるのかについて考えることも必要ではないでしょうか。

元々、ISO 9001は失敗事例の集大成とも言われています。長い歴史の中で様々な失敗事例の中から、その失敗を次にどう活かしていくべきかを考えた“多くの組織の失敗に基づくべからず集”なのです。また、経営学というのは概念的な説明になりがちですが、ISOはマネジメントシステムの具体的な枠組みを示しており、より有効活用しやすいものとなっています。これまでビジネス・マネジメントシステムの中で無意識に行ってきたことが、ISOの枠組み(フレームワーク)を活用することで意識して行えるという効果も生まれるでしょう。

ドラッカーの本では、モチベーションやイノベーションなどがキーワードとして出てきます。これらの用語については、ISO 9001には出てきませんが、ISO 9004(持続的成功のための品質アプローチ)では言及されています。ISO 9004についても、この規格は認証のためのものではないものの、マネジメントシステムを良くするためのツールとして、ぜひ、ご参照いただければと思います。

ISOに積極的に取り組むことで、必ずいい成果を生み出すことができる。厳しい社会・経済状況が続いている今だからこそ、改めてISOのマネジメントシステムを見直し、変化にうまく対応できるよう活用していただきたいと私たちは考えています。

(掲載日:2011年7月4日)