【品質】二者監査の実践テクニック(4):サプライヤーの文書を読み解く

奥村朋子 LRQA主任審査員
奥村朋子
LRQA 主任審査員

日本のものづくりは、良くも悪くも職人気質で弟子が師匠の背中を見ながら育つことで保たれてきました。古いかもしれませんが、私が工場にいた頃の製造長(製造工場の現場の責任者)がよく部下に言っていたのが、「山本五十六の言葉を知っているか? 『やってみせ、言って聞かせて、させてみて、誉めてやらねば人は動かじ』だ」でした。どこにも、文書化もなければ、手順書、QC工程図などという、QMSでは当然の言葉も出てきません。ところが、検査工程を韓国の工場に移管するとき、それまで自分たちが他工場の製品を移管してくるときにアメリカ本社から言われ続けたCopy Exactlyの本質が見えてきたのです。工場移管や工程移管は、多くの場合、戦略的に垂直立ち上げで実施されます。垂直立ち上げですから、既に成果の出ている方法をそのまま実施すれば、あれこれ検討せずともいいはずです。そして、この垂直立ち上げのときに必要になるのが、「書いたモノ」、つまり、マネジメントシステム文書、工程管理のための各文書だったのです。

「やってみせられる人」も、「言って聞かせる人」も、「やらせて誉めてあげられる人」も、どの工場にも必須の要員です。この「人」の部分を体系的な書面にし、それを必要とする人のだれもが分かる共通の用語で表したものが、マネジメントシステム文書なのです。同じことを同じ時間経験しなければ育たないような育成では、間に合わない状況が発生し、とりあえず数年の予定で日本の大事な「人」を派遣しても、特に海外工場は、文化が違うことを互いに理解しない限り、「人」が日本に戻ると、工程管理は「人」が滞在していた時から変化してしまいます。

Copy Exactlyに実行されていなければ意味がない

「欧米の自動車業界では、マネジメントシステムが存在すると言えるのは、それらが文書化された状態を意味している」と言われた時に、「なるほど」と思う方と、「文書化していなくとも、実行できていれば良いはずだ」と思う方がいらっしゃるでしょう。適切に実行していることを証明するためには、実は、何を持って適切とするのかの基準がなければならない。それが、文書化の必要性の一つなのかもしれません。

上司が部下を、適切に仕事をしていると判断する際に、当然ながら判断基準があるでしょう。欧米では、この判断基準が文書化されていることが多く、その結果、マネジメントがチェンジした翌日も、同じ結果が出せるのだと言われています。日本の組織ではマネジメントが人事異動すると、評価も変化しますし、仕事が軌道に乗るのは、いつ頃でしょう?

仕事の責任・権限が「○○に関すること」ではなく「○○と××を△△する」「○○までに各××より□□が提出されるので、それらを総合分析し、△△としてまとめ、毎月の▽▽会議3日前までに、◎◎まで提出のこと」などのように明確だったら、違う仕事を任された時も、何をしたらよいのかがハッキリしていますから、慣れるのも早いでしょう。

これは、当然ながら供給者・協力会社・外注先(以下、サプライヤーと記載)と呼ばれる、サプライチェーンに必要不可欠な組織にも同じことが言えます。

読者の組織でもサプライヤーに対し、例えば、新規製品立ち上げ時に提出して欲しい記録、初期流動管理時に実施して欲しい事項、部材の材質や生産所を変更する際の予めの申請・承認手順などの遵守事項を定めた「品質保証協定書」(供給者向け品質マニュアルなど名称は様々)を取り交わし、品質保証を実行してもらうために必要な文書、実行していることを証明する記録などを提出してもらっていることと思います。

ところで、この文書、「そのとおりに実行すると、同じものが作れます」、あるいは、「製造工程が管理状態にあり、良い製品を供給し続けられます」という文書ですから、書かれたとおりに、つまり、Copy Exactlyに実行されていなければ意味がありませんし、書かれているとおりにやったら成功したという証拠が付いていなければ、これもまた意味がありません。

読者の皆さんは、そのような視点でサプライヤーから提出された各文書を読まれているでしょうか?

提出された文書を読み解く。もう、監査の準備段階に入っていることにお気づきでしょうか? 「うん?」という箇所があれば、確認が必要になるでしょう。同じ部材を購入する違うサプライヤーから提出された管理文書に違いがあれば、それもまた、何らかの確認をしたくなるでしょう。生きた監査チェックシート作成のスタートです。

「サプライヤーに何を提出してもらうのか? 」−監査はそこから始まっている

「SANGENSHUGIで監査を実施します」と、工場に勤務していた当時、ある顧客企業の監査員からのメール(英文)に記載されていたことがあります。いくら調べても該当する英単語がありません。しばらく悩んでいて、ふと、ローマ字読みをしてみると「サンゲンシュギ」つまり「三現主義」を、そのまま彼らの組織で取り入れたのだと気がつきました。品質管理の役員が日本の自動車会社出身で、そのやり方を導入して指導したのだと、来日した南米人の監査員から聞きました。当時の私は、今とは違い、「不良品を流出させた組織でもないのに、なんで監査なの?」と思っていましたが、文化圏の全く違う地球の裏側の国から「買い物」をするのに、「実態を見に行かないでは安心して買えない」と彼らの組織は判断したようです。  

今は、その真逆の現象になりつつあります。北米向けの自動車のための部材工場を南米に持っていくことで、輸送コストは大きく軽減でき、日本を経由させないことで、アベノミクスの負の影響も避けられるでしょう。人件費が高騰し始めた新興国の工場で作った部材を輸出するよりも、利益効果は大きいでしょう。しかし、文化は大きく違います。日本流を通したら、立ち上げ要員と現地要員の間に衝突が発生し、あっという間に破綻するかもしれません。それが、自組織のサプライヤーになるとしたら?  

変化のサイクルは、10年前とは比較にならないほど早くなりました。1年前OKだったことは、今も大丈夫だとは言い切れない、日本の皆さんもこの点に気づき始めていますが、変わるべきなのは、サプライヤーではなく、自組織の方なのかもしれません。問題が起きてから行動すると、問題が起きる前に気づいて対処していたときの数倍のコスト負担になります。時には、組織の存亡にもかかわるでしょう。  

二者監査は確かに費用がかかります。しかし、監査をしなかったがために、品質問題を発生させたことを考えれば、充分にメリットを出せるコスト負担と考えるべきでしょう。そして、そのコストを最小限にとどめることが、事前準備を入念に行うことで可能になります。監査は準備8割とは、まさにそのとおりだと、感じています。  

この入念な準備こそ、前述した、サプライヤーに提出してもらう管理文書とそれに伴う記録を読み解くことです。となれば、何を提出してもらうのかの計画段階から、既に監査準備はスタートしていることになります。  

AIAGが発行しているCQI-19に附属するサプライヤー監査チェックリストには、大変簡潔ですが、「PPAPを要求されている顧客に納品する製品に組み込まれる部材のサプライヤーに、PPAP提出を要求しているか?」という項目があります。「自組織のサプライヤーが更に下層のサプライヤーにPPAP提出を要求しているか?」ということですから、自組織はその顧客から同様の視点で見られていることにもなります。  なぜ、その文書を提出してもらう必要があるのかを、サプライヤーが理解できる表現で要求することができれば、提出書類をどう読み解くのかは、分かったも同然です。形ではなく、実務から考えてみてください。 二者監査を必要な時に確実に実施する

二者監査を必要な時に確実に実施する

「未曾有」という言葉は経験したこともない稀な、しかしとても大きな脅威につく冠でした。しかし、この数年の間に、「未曾有の」という表現は何度使用されたでしょうか。  

机上だけでは見えないことはたくさんあり、また、机上にどんな情報が集まっているのかで、見え方は大きく異なります。二者監査は、通常内部監査と呼ばれている一者監査同様に、経営者の「目」の一端を担う、内部目的の監査です。  

取引開始前監査、取引開始後の定期的な監査、問題発生時の臨時監査、目的はいくつかありますが、自組織に対するリスクの有無を確認し、リスクが発見された場合には、その影響が最小になるように、(被監査側の協力を得ながら)処置を求めていくための二者監査は、サプライヤーの第三者認証審査の報告書の活用と併せ、必要な時には確実に実施することが今後のサプライヤー管理には必須となるでしょう。

掲載日:2013年11月 (アイソス No.192 2013年 11号)

関連コラム一覧 <開く>

コラム

全てのコラムを表示

お問合せ/Enquiries

ロイド レジスター クオリティ アシュアランス リミテッド 
Lloyd's Register Quality Assurance Limited 

マーケティング チーム   
Marketing Team  

Tel: 045-682-5280  Fax:  045-682-5289 
E-mail:   LRQA-Japan-Marketing@lrqa.com